第14章 未来を変える種
謙信は眉間に皺を寄せ、物思いにふけった。
舞の手に渡った文は、安土を出立した日に牧に預けた一通だけだ。
越後の様子や舞を気遣う内容の文、迎え入れるための進捗を書いた文は渡らずに戻ってきてしまった。
謙信「さぞかし心細い思いをしているであろうな…」
心優しいあの娘のことだ。
世話になった安土の面々に対して後ろ暗く思い、心痛めていることだろう。
謙信「早く迎えにいってやらねばな」
新年の宴に集まった家臣一同に、正室に迎えたい姫が居ると伝えた。
情報が洩れることを危惧し、名は伏せ敵方の姫だと説明したが予想通り姫の名を追及する声があがった。
謙信直属の部下はともかく、同盟を組んでいる大名達は相手の名を言わぬなら承諾はできないと言ってきた。
それらの者達と一人ずつ話をする場を設け、説得が難しい場合は堅く口止めし安土の姫だと告げた。
中には信長と繋がるのを毛嫌いし、同盟解消を申し出た者も居たが謙信にとっては些末なことだった。
謙信「同盟解消は問題ない。
だが俺が姫を娶るまでの間、姫の名を口外した暁には末代まで上杉の敵とみなす」
その迫力ときたら数多の戦を経験した大名達を震え上がらせるほどだった。
会談の場から大名が冷や汗を滲ませ、転がるように出てきたのを城の者が何度も目撃した。
そうして睦月の暮れに全員招集をかけられた大広間で、謙信の婚姻は満場一致で皆が認めたのだった。
それと同時進行で舞に婚姻を申し出るタイミングや、安土と波風たたぬ関係を如何にするか思案した。
信長のご機嫌取りをするようで癪に障るが、舞が安土の姫という肩書をもっている以上致し方ないことだった。
全て下出に出るつもりはない。
同盟解消は免れたが、中には信長をよく思っていない者もいる。
その者達が納得する条件をうまく組み込み、いかに信長に突き付けるか。
夜な夜な様々な方面の人間から意見を聞いた。