第14章 未来を変える種
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それから程なくして、体調は新たな変調をきたした。
「はっ…うぅ」
熱っぽい体に鞭打ち厠に行くと、こらえきれず嘔吐した。
今日は朝からずっと胸の辺りがモヤモヤしていて、食事の後どうしても我慢できなくなった。
「げほっ」
吐いても治まらない吐き気に、確信した。
(やっぱり妊娠してるんだ…)
はぁはぁと乱れた息を整えたくても、心臓がドキンドキンと嫌な音をたてて静まってくれない。
懐に忍ばせていた布を、下着にあてがっていた血で汚れたものと交換する。
出血を女中さんに気取られないよう、タイムスリップした時に履いていた下着をつけて布をあて、汚れた布は密かに処分していた。
『女中には気をつけろ』そう忠告を受けたことが、まさかこんな時に役に立つとは思わなかった。
着物を直していると戸の向こうから付いてきた女中さんから声がかかった。
女中「姫様、何かお手伝いすることはございますか?」
ドキリとして手拭で口を拭いて着物を直す。
「大丈夫です」
胸のむかつきは治まっていないけど、気を張って返事をした。
厠を出ると待っていた女中さんが棉入りの羽織を肩にかけてくれて、一緒に部屋へ向かう。
足袋をはいていても廊下の冷たさが足から全身へ伝わってくる。
ぶるっと身体が震え、急ぎ部屋へ戻った。
私が布団に入るのを見届けると、女中さんは隣の部屋へ戻っていった。
秀吉さんが心配して四六時中女中さんをつけたらしく、いつも誰かが隣室に待機している。
気持ちはありがたかったけど、布の処分が難しくなり、妊娠がばれる可能性や牧さんと接触できないという不都合が生じた。
隠し事のある身としては息が詰まるようだった。
(体調を崩していることを牧さんが気づいてくれたら……)
今のところ城の中で気配を感じたことはないので、本当に居るのかもわからない。
体調を崩しているという内容の文を書いたけど、常に人が張り付いている状態では牧さんも忍び込んでくるのは難しいだろう。