第14章 未来を変える種
静かになった部屋で横になり、ボンヤリと天井を見た。
「これで…いいんだよね」
妊娠しているかもしれない。そう気付いた時、とっさに『妊娠を隠さなければいけない』そう思った。
妊娠を伝えれば相手は誰だという話になる。
謙信様だと言えば越後と安土の関係がこじれる可能性があって、せっかく『越後と安土が良き関係となるよう、最善の策を練って…』と謙信様が言ってくれたことが水の泡になる。
信長様と謙信様には争わず良好な関係になって欲しい。
私にとってどちらも大切な存在だから。
独りよがりだと言われようとも、譲れない。
なるべく急いで迎えに来るという言葉を信じ、それまでは隠し通そうと決心した。
謙信様に相談もなしに信長様達に妊娠を伝える、というのも個人的な理由で気が引けた。
(できることなら…一番に謙信様に教えたい)
その想いに従い、妊娠を隠すためにわざと医師の診断を受けた。
昨日まで月のものはあったと申告し、その他妊娠に繋がりそうな問診には偽りの回答をした。
その結果『はっきりとわからない』という診断をもらった。
これこそ私が欲しかった診断結果だった。
体調は崩しているけれど妊娠しているわけではない、というお墨付きをもらいたかった。
あとは秀吉さんと三成君に言ったように嘘の体質を伝え、悪阻(つわり)が酷くなった時に疑われないようにするだけだった。
秀吉さんに家康の薬を飲むと言ったけれど、妊娠の可能性があるならと昨日から服用を止めている。
「……」
秀吉さんがたくさん掛けてくれた布団を頭まで引っ張り上げた。
秀吉さん達の思いやりの心が胸に刺さって苦しい。
「……っ、謙信様…」
愛しい人の名を呟いた途端、堪えていた涙がポロリとこぼれた。