第1章 触れた髪
家康は寂しさを漂わせる私をじっと見ていたけど、おもむろに文机の引き出しを開けた。
そこから白い紙の包みを二つ、取り出した。
家康「これは冷えを改善する薬。こっちが血の巡りを良くする薬。前に体調を崩した時に診察したら、あんたの体は血の巡りが悪い。
これから寒さが厳しくなるから、体質改善のために毎日これとこれを飲んで」
そう言って包みをよこした。
(え?こんなに?)
受け取ると結構な重みがある。
「体質は簡単に変わるものじゃない。
とりあえず俺が帰って来るまでの分、包んでおいた。ちゃんと飲んでよ。安土に戻ってきたら診察して確かめるからね。
あと、その他に…」
引き出しの中から先程より小さな包みが出てくる。
(まだ薬が出てくるの!?)
若干及び腰になる。
家康がチラリと私の表情を見て言った。
家康「まだ薬がでてくるの?っていう顔してるね。」
「え、そ、そんな事ないよ、ふふ。心配してくれてありがとう」
家康「あんたが弱々しいのが悪いんでしょ。で、これが熱さましの薬。
冷えが強く、血の巡りが悪いと風邪をひきやすい。もし熱が出たら飲んで。
炎症を和らげる薬も入っているから、喉が腫れた時も飲んでいい」
そう言って再び引き出しに手を入れた。
まさかまた薬が出てくるのだろうか…と心配したけれど、出てきたのは薄桃色の巾着だった。
桜色の小花の柄が入っていて、とても可愛らしい。
家康はその巾着に熱さましの薬を入れて私の方へよこした。
家康「熱さましの薬は、他の薬と間違えて飲まないようにそれに入れておけばいい」
「こんな可愛い巾着…もらっても良いの?」
女物の小物になんか興味なさそうな家康と目の前の可愛らしい巾着が結びつかなくて、思わず聞いてしまった。
家康「気に入らないなら返してもらうけど」
「そんなことないよ!その…嬉しい。ありがとう、家康」
巾着とずっしりと重い薬を受け取る。
その重みが家康の優しさなのだと、ありがたくて嬉しくて涙がにじむ。
突然現れた私にこんな優しくしてくれるなんて、初対面の時を思うと信じられない。