第1章 触れた髪
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政宗が奥州に帰っていった半月後。
朝晩の冷え込みが本格的になってきたある日の昼下がり。
私は家康に呼びだされ、安土城の部屋を訪れた。
「家康。舞だけど、入っても良い?」
一声かけると、直ぐに返答があって中に通された。
部屋の中はいつも以上に綺麗に整理整頓されていた。
(家康も帰っちゃうんだな…)
政宗が帰る時にも感じた寂しさが、また襲ってくる。
いつも素っ気ない態度と言葉ばかりだけど、家康が本当はとても優しい人だって知ってる。
怪我をしたり熱を出すとなんだかんだ文句を言いながら、治るまで傍に寄り添ってくれていた。
家康が作る薬は苦いから嫌!って言った時、ちょっと凹んでたっけ。
『だったら飲まなきゃいい。熱が下がらなくて苦しい思いをするのは舞だよ』って言いながら、次に薬を飲んだら飲みやすいように工夫されていた。
「…寂しいな」
ポツリと口からこぼれた言葉に、家康の目が見開かれた。
家康「部屋に入ってきて早々、何言ってんの。
俺や政宗さんが安土を離れるのは、情勢が安定している証拠だ。
戦嫌いのあんたが一番望んでいたことでしょう」
「そ、それはそうなんだけど…」
文机を挟んで家康と向かい合わせの場所に座り、俯く。
平穏で楽しい日々がずっと続けば良いと思っていたけど、それは皆が一緒に居るという前提のもとだったんだと気づく。
家康「はぁ。俺は政宗さんと違って、卯月には安土に来る予定だから…」
『そんな顔しないで』っと言ってくれているのがわかって、顔を上げる。
(卯月って4月だよね。ってことは、家康とも今日でお別れだ)