第14章 未来を変える種
「はい、わかりました。心配して下さってありがとうございます。
あの、そろそろ手を…」
さっきからずっと掴まれた右手首を見る。
信長「今宵の勝負は俺の勝ちだ。膝枕しろ」
信長様は手を離すとコロンと寝ころんだ。
膝の上に乗った信長様の頭からジワリと暖かさを感じる。
(膝も冷えてるんだ。本当、どうしたらいいんだろう)
スパッツみたいなものを作って、着物の下にこっそり着ようかなどと考えて、諦める。
(眩暈で縫物するのも億劫だし、自分の物を作る前に武将くまたんを完成させなきゃ)
武将くまたんは本体と着物はそれぞれ完成し、刀や眼帯など小物類の製作に入っていた。
迎えがくる前になんとしても完成させたかった。
膝枕で寝ころんでいる信長様に視線を落とし、口元が緩んだ。
(信長様に似せたくまたん、着物が上手に再現できたんだよね。
天主で何度も着物をお見掛けしていたから…)
幾度こうして天守に呼ばれ囲碁の勝負をしただろう。
思い出して胸がキュッとする。
(私が謙信様と恋人だって知ったら、お怒りになるだろうな)
囲碁を打っている時のピリッとした空気、負けたあとの膝枕。他愛もない話。
最初は緊張して疲れるばかりだったけれど、いつの間にか心落ち着く穏やかな時間に変化していた。
信長様もこの時間だけは冷たい目を暖かな色に変え、過ごしている…気がする。
信長様だけじゃない、取り巻く武将の皆も心許して接してくれているのに、私は…裏切っている。
針で刺したようにチクチクと胸が痛い。
(武将くまたんを作っても受け取ってくれないかも)
冷たい手がさらに冷たくなるようだ。