第14章 未来を変える種
信長「油の匂いとな。つまらぬものに勝負を邪魔されたものだ」
信長様は碁盤を脇に押しやると私の右手首をとった。
そのまま信長様の方へ引っ張られ、近い距離で視線がかち合った。
真剣な表情に心臓が跳ねあがり、身を引こうとしたけれど信長様は離してくれなかった。
信長「手が冷たいな…」
「もともと冷え性なので冬はいつもこうです。
お部屋が暖かいので本当に寒くないですよ」
信長「薬を飲んでいると言っていたが家康の薬か?」
指先で頬を撫でられる。
信長様の指がとても暖かく感じて、頬が冷たいのだと自覚する。
「はい」
信長「ならば良い。このように身体が冷えていては夜、眠れないのではないか?」
「そうですね…。
女中さんが部屋を暖めて、お布団もあんかで温かくしてくださるのですが、なかなか…」
床下からあがってくる冷えや、どこからともなく入り込んでくる隙間風に悩まされていた。
敷布団を二枚にしてもらったり、掛布団も増やしてもらっているけれど眠りが浅かった。
女中さん達が手厚く世話をしてくれて、これ以上ない待遇なのに、それでも寒さに震えているのだから贅沢としか言いようがない。
(冷え性だけど、こんなに深刻に冷えに悩んだことなかったのに…)
気密性あり、断熱材ありの家で生まれ育ったせいなのかもしれない。
この時代にはない羽毛布団が欲しいなんて、言えない。
でも慣れなきゃいけない。謙信様が治める越後はもっと寒いんだから。
(がまん、がまん…)
信長「やせ我慢せずに寒いなら女中に言え。あやつらはそのために居る」
信長様は私の考えていることを見通したように言った。