第14章 未来を変える種
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その日の夜、久しぶりに信長様に呼ばれて天主へ向かった。
「信長様、舞です」
天主へ続く襖の前で声をかけるとすぐに部屋へ通された。
一歩足を踏み入れると部屋がほんわかと暖かい。
いつも開け放たれている窓や襖は全て閉められていた。
(珍しいな)
そう思いながら信長様の傍に座る。
たいてい欄干の近くでお酒を飲んだり城下を眺めている信長様がこんなふうに締めきっているなんて稀だ。
絨毯がひかれた床の上に、さらに分厚い座布団が用意されていた。
信長「寒くないか?」
すでに碁盤が用意されており、近くに火鉢が置かれていた。
「はい。とても暖かいです。もしかして私の体調を心配してくださったのですか?」
ふかふかの座布団が床からの冷えを遮ってくれる。
信長「ふん、縁起物に風邪をひかれては叶わんからな。
では始めるぞ」
「ふふ、ありがとうございます」
しょっちゅう天主に呼ばれて言葉を交わすうちに信長様のことが少しわかるようになった。
縁起物だ、俺の所有物だ、はねっかえりだと散々言われるけど、言葉とは裏腹、眼差しや言葉はとても暖かいものだった。
どっしりとした存在感と静かに見守っていてくれる様子が、どこか死んだお父さんと重なった。
碁盤を挟んで向き合う。
お互い碁石を手に取り、パチンパチンと碁石を打つ音が響き始めた。
(うーん、押されてる)
行灯の灯りは月明りよりも随分と暗くて盤上が見えにくい。
薄暗い中で次の手を考えていると、ふと行灯に使われている油の香りが鼻をかすめた。
一度気になってしまうと集中力が途切れてしまい、あっという間に負けてしまった。
「負けました」
打つ手がなくなり、いつも通り頭を下げた。
信長「途中で集中が切れたようだがどうした?」
信長様は脇息にもたれて手の中で碁石を弄んだ。
「いえ、たいしたことでは。
油の香りが気になりまして…いつも月明りで勝負していたので環境が変わって集中できなかったみたいです。
申し訳ありませんでした」
正直に話して頭を下げた。
それだけではなく碁盤の目をじっと見ていると眩暈がしてくるというのもあったけど、些細な事だと伝えなかった。