第1章 触れた髪
「それより、政宗はあと数日で奥州に帰っちゃうんでしょう?なんだか寂しくなるな」
近隣諸国に不穏な動きは見られないため、政宗は雪深くなる前に奥州の青葉城に戻る事になっていた。
今月末には家康も一旦安土を離れ、駿府に戻る予定だ。
政宗「武将が勢ぞろいしている今の状態が異常なんだ。
何かあればまた安土に来るさ」
年が明けたら私は500年後に帰る。
だから政宗とこうして会えるのはきっと最後だ。
政宗自身にも、政宗が作ってくれる美味しい料理にも、何度も元気づけられた。
颯爽と現れたかと思うと遠出に誘ってくれたり、風邪で寝込んだ時は心配しておかゆを作ってくれた。
私が好きなお菓子や料理をたくさん作ってくれて、すっかり餌付けされた気分だ。
大胆な性格にみえるけど、繊細な心遣いができる政宗が好きだった。
政宗「寂しいなら一緒に来るか?俺はいいぜ?」
色気を含んだ蒼い瞳がキラリと光った。
「えっと、寂しいのは確かなんだけど…違うの。
皆が揃ってるのが当たり前に思っていたから、一人でも居なくなってしまうのが、なんだか…」
寂しい…
そう言おうとしたのに、できなかった。
政宗にぎゅっと抱きしめられたから。
戯れにキスされそうになったり、抱きしめられた事はあったけど、今回はちょっと違う気がした。
政宗「…そんな寂しそうな顔すんな。連れ去りたくなるだろう?」
固い胸板の感触を頬に感じて、カッと熱くなる。
「ま、政宗っ!」
両手で押し返そうとしても、政宗の体はびくともしない。
「舞…」
政宗は私の感触を確かめるように腕の力を強め、香りを楽しむように肩口に顔を埋めた。
私はというと抵抗も虚しく、されるがままだ。
「も、もう、政宗ったら!こういうのは恋仲の人としなきゃ!」
とりあえず自由に動かせる口で応戦する。
政宗「俺はお前のこと好きなんだけどな」
以前から何度も言われたセリフを軽くいなす。
「はいはい、わかりました!奥州は遠いから、気を付けて帰ってね?」
私がそういうと政宗の腕が緩み、間近に見つめられた。
「はぁ。お前には何度言っても伝わらねぇのな…。
しばらく会えないだろうが、気が向いたら文を書く」
『羽織、大事にする』そう言った政宗は、数日後安土を去っていった。