第13章 二人の絆
どのくらいそうしていたのか、時間の感覚がわからなくなった頃、ようやく信玄様の咳が落ち着いた。
そのまま布団に寝てもらった。
信玄様は身長が高いので布団から足がでてしまったので、多めに出した掛布団で足元が温かいようにくるんであげた。
信玄「姫、すまなかったな」
気だるげに言う信玄様の声は咳をしすぎて掠れている。
顔色も青白い。
「いいえ、もともと私の見送りに出ようとして冷たい空気に触れたのがいけなかったんです。
信玄様が胸にご病気を持っているのを知っていたのに配慮が足りませんでした」
信玄「……やっぱり君は俺の病を知っていたのか。
開口一番で俺の身体を心配していたからまさかとは思ったんだが…。
何故俺の病を知っている?誰から聞いた?」
弱っていながら、追及する目は鋭かった。
「誰かに聞いたわけではありません。
私の経歴を話せないのと同じ理由で、信玄様の問いにはお答えできません。
ただ…病気のことを誰かに話そうとか、利用して何かをしようなんて思っていません。
信じてもらえませんか?」
信玄「……」
信玄様は迷っていたようだけど大きく息を吐いて頷いた。
信玄「わかった、信じるよ。
佐助もそうだが、なんだろうな。表現しがたいんだが、君たちは『中立』の立場にいる、そんな気がするんだ」
「中立…ですか?」
信玄「そうだ。佐助は謙信の家臣。君は安土の姫だが根っこの部分はどちらにも属さないような。
なんて言えばいいんだろうな、敵味方の垣根がない。そんな感じがするんだ」
(ああ、信玄様の言いたい事がなんとなくわかった)
現代人の私と佐助君にとって、身を置いている陣営を大切に思う気持ちはあるけど、どこか一歩ひいたところで物事を見ていて、敵方に対して心の底から敵愾心(てきがいしん)は持たない。
もちろん個人的な恨みなんてないし、安土の敵だと言われて、はいそうですか。とはならない。
そのあたりを中立と捉えられたのかもしれない。
流石だと思った。
信玄「俺にとって不利な情報を君が知っていても信長に伝えるようなことはしない。そんな気がするんだ。
姫も佐助も本当に不思議な人間だ。君達の国は皆そうなのか?」
鋭かった眼光が和らぎ、羨むような色を滲ませている。