第13章 二人の絆
廊下に出るとヒュウと冷たい風が頬に当たり首を竦めた。
「冷えますね」
信玄「そうだな」
信玄様がコンコンと咳をした。
それで終わるかと思ったら咳は続き、信玄様の表情が苦しげにゆがんできた。
信玄「…これはいけないな。君に風邪がうつるといけない。
ここから一人で玄関までいけるか?」
信玄様は私を行かせようとしたけれど明らかに風邪ではない咳に不審感が湧いた。
気管支に響くような、乾いた咳だ。
「こんな状態の信玄様を放って帰るわけがないでしょう?部屋に戻りましょう」
信玄「いや、姫は帰りなさい」
そう言われても、はぁはぁと息を乱している人間を放っておけない。
(外の空気に触れたのがきっかけで持病の発作がおきたのかも)
繋いだままの手を強引に引っ張って元の部屋に戻った。
襖をパシンと締めて、押し入れから布団を出して敷いた。
そうしている間も信玄様は咳き込んで、手ぬぐいで口を覆っている。
「信玄様、とりあえずここで楽な体勢をとってください」
余程苦しいのか信玄様は言われるままに布団の上に座った。
(胸が苦しいのかな)
コンコンコン!という連続する咳が、肺の空気を全て押し出す。
吐ききった空気を懸命に取り込むように、信玄様が大きく息を吸っている。
胸を押さえた手は固く拳をつくっている。
「発作をとめるお薬をお持ちではないですか?」
持病なら常に薬を持ち歩いているんじゃないかと訊ねてみたけど信玄様はかぶりをふった。
信玄「ない…な。薬は効かない」
喘ぐように言うと、また咳を繰り返した。
(この時代には信玄様に効く薬がないんだ。どうしよう)
「女将さんに知らせてきますねっ」
何か対処してくれるかもしれない。
そう思って立ち上がったのに、強い力で手首を掴まれた。
信玄「知らせるな、誰にも」
とても苦しそうなのに、助けを呼ぼうとする私の手を掴んで離さない。
鬼気迫る…そんな迫力に身体が石のように動かなくなった。