第1章 触れた髪
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霜月(11月)に入ってすぐ政宗の御殿を訪れた。
頼まれていた冬用の羽織を試着してもらうためだ。
「どうかな?直して欲しい所があれば言って?」
採寸して作ったとはいえ着心地の好みは人それぞれだ。
ピッタリが好きな人も居れば、少し余裕があるのを好む人も居る。
(前もって政宗の好みを聞いてから作ったけど、どうかな)
政宗は腕を上下させたり体を捻ったりして確かめた後、満足したように頷いた。
政宗「申し分ない。生地も刺繍もお前任せにしたが、なかなか斬新で面白い」
「そう言ってもらえると嬉しい」
政宗は羽織を脱いで、ふと手を止めた。
政宗「ここにある印はなんだ?」
政宗が見ている場所は人目につきにくい羽織の裏地。
そこに小さな刺繍が縫いこんである。
「それは私が作ったよ、っていう印。
よくお茶碗やお皿の裏に、作った人の名前や印がついてるでしょう?それと同じで、『この服は私が責任もって作りました』っていう印だよ
この印がついた物なら無料で手直しをしてるんだ」
政宗「…へえ」
デザイナーとしての性なのか、作った物に何かを残したくて、ロゴを入れていた。
本当に小さく刺繍しているので、気づかれたのは初めてだった。