第13章 二人の絆
信玄「ははっ、怒らせてしまったみたいですまんな。
さてどこまで話したかな。経歴は教えられない、寵姫ではないってとこまでか。
じゃあ君は謙信を篭絡してどうするつもりだ?」
「っ、篭絡だなんてそんな…私は謙信様を好きになってしまっただけなんです。
どうするも何も……」
信玄「姫にとって信長は恩人かもしれない。
世話になっているだろうし、それなりに情も湧いているだろう。
だがな、この俺にとっては国を奪った憎い相手なんだ。俺は信長とやり合うためならどんなことだってする。甲斐の国を取り戻し、昔のように民が力を合わせて暮らせるようにしてやりたい。
敵対していた謙信と同盟を組んだのもそのためだ。
謙信が君を妻にと望めば、信長と組むしかない。俺が言いたいことがわかるか?」
謙信様と結ばれた以外にも、プロポーズされたことも信玄様は知っていた。
うすら寒さを覚え、身体がフルリと震えた。
「謙信様が信長様と手を組んだら、信玄様は目的を果たせなくなるということですね?」
同盟を解消する事態になるのは間違いない。
信長様と謙信様が結びついてしまえば、国を取り戻すという悲願は見果てぬ夢になる。
(謙信様と私が結ばれたという事実は信玄様にとって不利益でしかないんだ)
ということは、信玄様の目的は……
「信玄様は、私と謙信様に別れて欲しいんですね?」
信玄「ふっ、君はなかなか敏いんだな。できればそうして欲しい。
紙と墨は用意してある。
謙信に『気の迷いだった。別れたい』と書いてくれるとありがたいんだが」
信玄様は部屋の隅においてある文机を指した。
ご丁寧に墨はすってある。
実は部屋に入った時から気になっていた。
牧さんが使うのかと思ったけど帰ってしまったし、何故墨の準備がしてあるんだろう?と。
(牧さんは私を歓迎してくれていた。これは信玄様の独断なんだ)
牧さんは謙信様達の後を追って行ってしまった。
一人で信玄様に立ち向かわなきゃいけない。
お腹にぐっと力を入れた。