第13章 二人の絆
「わ、私の経歴はおいそれと他人に話せるものではないのでお答えできません。
ですが訂正させて頂きたいのは信長様の寵姫というのはまったくの出鱈目です。
二人で夜な夜な囲碁勝負をしていたのを勝手に勘違いされただけです」
さっきお茶を飲んだばかりなのに喉の奥がカラカラに乾いて声が掠れた。
信玄「信長と夜な夜な囲碁をしている…?ははっ、そりゃあ愉快な話だな。
あの信長が君のような可愛い姫を前にして手を出していないだって?
君の守りが鉄壁なのか、はたまた信長がただの腑抜けなのか…」
信長様を馬鹿にされてムカッときたけど、年齢がひと回りは違うだろう人に食って掛かるほど子供じゃない。
(っ!怒らない、これはきっと挑発だ。冷静に……)
「ふふ、ハズレです。守りが堅いわけでも腑抜けだからでもありません。
私のような跳ねっかえりな姫に、女を感じないだけでしょう。
信玄様は可愛いと言ってくださいますが信長様は可愛いなんて一言も言ってくれたことはありません。
よく見てください。特別目を惹く容貌じゃないと思うんですけど……」
上手くかわせただろうか。お腹にものを抱えて会話するのは正直慣れていない。
それこそすぐ顔に出る質だから…
(でも挑発にのって怒ると、損するような気がする)
ふと脳裏に光秀さんと秀吉さんのいつもの風景が浮かんだ。
結局いつも秀吉さんが良いようにからかわれて終わっている。
(ふふ、日常の風景が役に立ったかな)
ムカついた頭がストンと落ち着いた。
信玄「そうか?君は美しいよ。初めて会った時、暗がりでも君が輝いて見えた」
腕が伸びてきて顎を指で掬われた。
「っ!?」
信玄「ほら、この驚いた顔も綺麗だ。
この柔らかい唇を食べてしまいたくなるほどに…」
指数本で顎を捕えられているだけなのに、どうしてか抗えない。
愉悦を滲ませ、ゆっくりと信玄様の顔が近づいて…
「や、やめてください、信玄様。
私は謙信様が好きなんです!」
我に返り右手で信玄様の手をどかした。
信玄「残念。だがここで俺に誘惑されるようでは君を認めるわけにはいかなかった。
一つ合格だ」
(合格?つまり謙信様の相手として相応しいか試してるってこと?)
口づけを迫る必要があったのか疑問に思い、顔をしかめた。