第13章 二人の絆
信玄「この宿は俺と謙信が安土に潜むために作ったからな。
ここで起きた事は逐一耳に入るようになっている」
「っ!!」
瞬時に頬が熱くなった。
謙信様と湯浴みをしている間に綺麗になっていた部屋。
恥ずかしさのあまり唇を噛んでいると、信玄様が動揺を誘うように言葉を重ねた。
信玄「君は……『安土の姫』だろう?
驚いたよ。佐助と同郷だといっていた町娘がまさか信長の寵姫だと噂されていた安土の姫だったとはな」
「……」
信玄様はその場から動いていないのに、じわりじわりと追い詰められているような感覚を覚えた。
その口から紡がれる言葉の檻がゆっくりと私を捕えようとしている。
信玄「姫の噂は日ノ本中に広まっている。
どのような姫なのか皆がこぞって知りたがっているが、俺もその中の一人だ。
忍びを使い調べたが、本能寺の夜に信長に拾われて安土に来たとことと、あとは城で健気に働く様子だけが報告に上がってきた」
嫌な汗が手の平を冷たく湿らせた。
(大丈夫、謙信様の時のように正直に答えよう)
そう思うのに信玄様の真意がわからないので、謙信様の時には感じなかった得体のしれない不安が湧いた。
信玄「不思議なことにな、本能寺で拾われる以前の君の経歴がまったく掴めない。
『はるかかなたから忽然と舞い降りた』
そうでもしない限り俺の情報網から逃れる事はできないんだが?」
『言い逃れは許さない』そう言外に示され、ひたりと見据えられた。
甲斐の虎という異名どおりに獰猛さを滲ませた信玄様が目の前に居た。
獲物を定め、いつでも飛びかかれるように様子を窺っている。
(信玄様に食い殺されそう…っ)
手の平を返すように表と裏の顔を見せられ、だからこそついていけず心も身体を恐怖で慄いた。