第13章 二人の絆
「ふぅ、恥ずかしい思いもしたけど、牧さんとお話できて良かったな。
初めて会った時は会話にならなかったもの」
すっかり冷えてしまったお茶を口に含んでいる、信玄様の声がして襖が開いた。
手にはお菓子と湯呑がのったお盆を持っている。
信玄「姫、お茶を煎れなおしたからこっちを飲みなさい」
持っていた湯呑をヒョイと取り上げられ、湯気が立ちのぼる熱々の湯呑を渡された。
冷えていた指先がじんと温まった。
「温かいです。ありがとうございます、信玄様」
信玄様は口元を綻ばせて、私の正面に胡坐をかいて座った。
大柄の信玄様と向き合って座ると迫力がある。
信玄「女将おすすめの菓子だ。さっき摘まんだがなかなかに美味しいぞ」
ぱっと見、かりんとうのような菓子に手を伸ばした。
(あたたかい、揚げたてかな)
口に含むとカリカリと良い歯ざわりだ。
現代のものと比べると甘さは控えめだけれど、充分美味しい。
「美味しいです」
信玄「だろー?」
信玄様はニッコリ笑ってかりんとうを口に入れる。
(なんだろう。信玄様って、何しても色っぽい)
かりんとうを咀嚼する姿も、湯呑を持ち上げる手つきも一見普通と変わらないのに何故か惹きつけられる。
(華があるっていうのは信玄様みたいな人を言うのかな)
信玄様はお茶を飲んで一息つくと、ここに居る経緯を話してくれた。
信玄「さっきも言ったけど、安土に潜入した謙信から佐助が病にかかり動けなくなったと連絡が来たんだ。
すぐ帰ってくるだろうって高を括っていたら一向に帰ってくる気配がない。
何がなんでも年始には謙信に城にいてもらわなくては困ると家臣達が嘆いていてな…。
仕方ないから迎えに来てやったんだ」
「お一人で、ですか?」
(謙信様の家臣じゃなく、なんで信玄様がわざわざ?)
疑問がいくつか浮かび、とりあえず話を聞こうと耳を傾けた。