第1章 触れた髪
(ほら反応も全然違う……ん?)
視界の隅に見覚えのある緑色の着物がうつった。
見れば隣には三成君も居て、他数名の家臣を連れている。おそらく市中を見回っているところだ。
(まずいんじゃないの!?)
さっと視線を信玄様と幸村に戻した。
二人は秀吉さんに背を向けているから全然気づいていない。
(まずいまずい!こんなところでひと悶着なんて嫌だよ!)
敵だって知ってるけど、悪い人達じゃないって思うから…逃げて欲しい。
「信玄様、幸村!市中見回りです」
小さな声で伝えると二人はすっと無表情になり、慌てず素早く立ち上がった。
幸村「主人、ここに金を置いていく」
主人「毎度あり。さっき頼まれた甘味、包んでおいたよ」
幸村が包みを受け取って、信玄様を促した。
幸村「信玄様、行きますよ。舞、ありがとな」
信玄「残念だ、もっと君と話してみたかったのに」
「ふふ、またの機会に。今日はごちそうさまでした」
風のように二人は去っていき、ホッとしていると入れ替わるように秀吉さんと三成君がやってきた。
秀吉「ん?こら舞。こんなに甘味を食べたら体に悪いぞ」
テーブルには信玄様達が残していった甘味の皿が並んでいる。
「あ、秀吉さん。見回りなの?これはさっきまで一緒にお茶をしていた人が残していったものなの。
勿体ないから食べちゃおうかな。流石に食べきれないから、良かったら一緒に食べてくれない?」
三成「秀吉様はあまり甘味を好まないので、私がご一緒してもよろしいですか?」
秀吉「っ、三成。お前こそ普段、甘味に目もくれないじゃないか」
「え、そうなの?三成君は頭をいっぱい使ってるから糖分を取った方がいいよ」
三成「ええ、お言葉に甘えて」
三成君が天使の笑顔で隣に座った。
秀吉「三成ぃ~~、さりげなくお前ってやつは!」
ぶつぶつ言いながら秀吉さんが向かいの席に座り、追加でお茶を注文した。
それからは家臣の人達も交えて賑やかなお茶の時間となった。
皆と笑い合いながら、頭の片隅で信玄様と幸村は無事に遠くまで行ったかな、なんて考えた。
――――
――
信玄「……へえ、天女はあの豊臣と石田三成と知り合いなのか…」
幸村を先に行かせた信玄様がこっそり様子を伺っていたなんて、知らなかった。