第13章 二人の絆
信玄様を見送り、襖の向こうに声をかけた。
「舞です。入ってもよろしいでしょうか?」
?「どうぞ」
謙信様でも佐助君でもない。
どこかで聞いた男の人の声がした。
(誰だろう。でも謙信様の使いって言ってたし…)
思い切って襖をあけると、そこに居たのは商人の服を着た佐助君の先輩だった。
忍び装束の時と雰囲気がガラリと変わっていて、すぐにはわからなかった。
「あなたは!せ、先日は大変失礼致しました!」
咄嗟の事だったとはいえ、投げ飛ばしたことを詫びた。
?「その件はもう終わりです。こちらへ来て頂けますか」
相変わらず無表情で声に抑揚がない。
用意されていた座布団に座ると一通の文を渡された。
(この手紙はもしかして…)
気分がふわりと高揚した。
?「どうぞお読みください」
かさ……
促されて文を開くと、謙信様の字が目に飛び込んできた。
宛名も差出人も書かれていないのは私を気遣ってくれたのだろう。
(嬉しいっ。謙信様が私に文を書いてくれたんだ!)
だけど舞い上がった気持ちは一気に急降下した。
(う…ほとんど読めない。崩し字だ~~~~)
せっかく頂いた初めての文なのに。
大きく肩を落とし、佐助君の先輩に文を渡した。
「申し訳ないのですが読んでもらっても良いですか?
私、字が読めないんです」
恥を忍んでお願いすると、佐助君の先輩は無表情ながら『姫なのに字が読めない?』と表情を崩したのがわかった。
だけど余計な詮索は一切せず、文を読んでくれた。
『別れ際お前に泣かれると攫いたくなるゆえ、黙って去ることにした。
夜明け前に佐助とともに安土を出発する。
遅くともふた月のうちに迎えにくる。それまで良い子にしていろ。
お前のことだ。俺と恋仲になったことで心痛ませる時もあろうが耐えて待っていてくれ。
お前の髪は嗅いだことのない甘く芳しい香りがして、心地良く身体を休められた。
愛している。この命尽きるまで』
?「………」
「………」
佐助君の先輩は読み終えると文を丁寧に畳んで返してくれた。