第13章 二人の絆
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昨日通った道を逆に歩く。目的地は昨日の宿屋だ。
「こんにちは」
宿の玄関で声をかけると女将さんが出てきて対応してくれた。
女将「お待ちしておりました。さ、中にどうぞ」
「いえ、借りた襦袢を返しに来ただけですので直ぐにお暇します」
草履を脱がず、襦袢だけ返そうとすると女将さんがやんわりと引き留めた。
女将「謙信様の使いの方が先程より奥の間で待っております。
それともうお一人…」
(謙信様の使いって佐助君?それにもう一人って誰だろう?)
首を傾げた時だった。足音が聞こえ、女将さんが頭を下げてその人物を迎えた。
渋い色味の着物を粋に着流して、甘く大人の色気を纏わせた…
「し、信玄様っ!?」
びっくり仰天とはまさにこのことだ。
謙信様だけじゃなく信玄様も安土に潜入していたなんて知らなかった。
(戦国武将ってこんなに頻繁に敵地に潜り込むものなの?)
私が知らないだけで、戦国あるあるなのだろうか…。
そんな疑問を頭に浮かべながら、信玄様に当たり障りない挨拶をした。
「お久しぶりです、信玄様。秋に会って以来ですね。
あの時はご馳走様でした」
女将さんの話だと信玄様は私を待っていたようだった。
格別親しいわけでもないのに何故待っていたんだろう。
信玄様は目配背をして女将さんを下がらせると、自ら玄関に降り私の手をとった。
信玄「姫、久しぶりに会えて嬉しいよ。
謙信と佐助が安土で身動きがとれなくなったと聞いてな。様子を見に来たんだがすれ違いになったようだ。
無駄足を踏んでやることがなくなった俺と、少しお茶を飲んでくれないか?」
「そうだったんですね。こんな寒い時期に大変だったのでは?」
今日はこれといった用事もないので、せっかくだから上がらせてもらうことにした。