第12章 看病七日目 木製の鈴
「あまり家臣の方達を振り回さないでくださいね?」
謙信「長年妻を娶れと口うるさかった連中を一気に黙らせられるのだ。
さぞかし愉快な反応をしてくれるだろうな、くくく」
「謙信様って結構意地悪なんですね…」
二色の瞳に覗き込まれる。
謙信「意地悪な俺は嫌いか?」
見つめられてドキリとした。
「っ、いえ。そんなところも…好きですよ?」
望んでいた返事だったのか謙信様は口の端を持ち上げ、穏やかに笑った。
謙信「温かいな。この温もりを早う得るためなら俺は何でもしよう。
待っていてくれ」
力強い腕の中で私はこくんと頷いた。
謙信「家臣達や大名達の了承を得たなら安土に婚姻申し込みの使者をたてる。
信長が素直に応じてくれれば良いが、断ってきた場合は…」
ぎゅっと心臓が縮みあがった。
謙信「案ずるな。お前が悲しむとわかっていて、すぐ戦などと言わぬ。
越後と安土が良き関係となるよう、最善の策を練って信長と話をつける」
「ありがとうございます。できる事なら越後と安土が手を結び合い、日ノ本を治めて欲しいと願っています。
一人でも多くの人が戦で命を落とさないように…」
祈るように大きな手を両手で包みこんだ。
この手が一度刀を振るえば、瞬く間に大勢の命が失われることを知っていたから、できれば振るわなくて済むよう話し合いで解決して欲しかった。
謙信「舞の心は仏のように清らかだな。お前といると心安らぐ」
「ふふ、仏様だなんて畏れ多いですよ。
私は戦がない国で育ちましたから…命が簡単に散っていくのが辛いだけですよ」
(そうだ、私が500年後から来た人間だってお話しないとな…)
「謙信様、私の国のことをお話していませんでした。
信じて頂けないかもしれないですが聞いて頂けますか?」
謙信「好いた女の話なら荒唐無稽な話だろうと信じる。
だが今夜はもう休め。あまり話していると気取られる恐れがあるからな」
「それはそうですね。では国の話はまた今度にしますね」
眠るために体勢を整える。
いつも寝ている布団に謙信様と一緒に入っているなんて変な感じだ。