第12章 看病七日目 木製の鈴
「少し身体が冷えていますね。今度は私が温める番です」
外から忍んできたせいか謙信様の身体はヒンヤリとしていた。
温めてあげようと身を寄せていると細く長い指が伸びてきて、頬を、髪を撫でた。
謙信「ほんのふた月離れるだけだというのに、このまま永遠に会えなくなるような、いわれのない不安に襲われる。
何をしていても舞のことばかり考えてしまう。俺は狂ってしまったのだろうか…」
心の内を口にしながら苦しげな表情をしている。その気持ちならよくわかる。
「私も同じ気持ちです。ふた月後、本当に謙信様と再会できるかとても不安です。
お城に帰ってからもずっと謙信様のことばかり考えていました」
謙信「舞…」
謙信様の手が、温もりを探すように背に回った。
私も甘えて逞しい胸にすり寄った。
「謙信様が好きで好きで仕方ないからです。恋煩いです。
本人に向かって『恋煩いです』って言うのもおかしな話ですけどね」
「甘酸っぱいようなフワフワした気持ちで胸がいっぱいで、甘くて溶けそうなのに、時々すごく不安になるんです」
拙い表現で気持ちを精一杯伝えると、それが伝わったのか謙信様が目を細めて笑った。
謙信「そうか。では俺もお前に恋煩いをしているのだな」
謙信様はおもむろに私の手をとると左胸に持っていく。
トクトクトクトク…
早い心臓の音が手に伝わってくる。
「私も……」
謙信様の手をとって自分の左胸にあてた。
トクトクトクトク…
シンとした部屋で互いの心臓の音を聞き合う。
「ふふ、ドキドキがおさまりませんね」
謙信「ふっ、そうだな」
狭い布団の中で声を抑えて笑い合う。
謙信「愛おしいな。お前はふた月待っていられると言っていたが、俺が待ち切れんかもしれん」
「ふふ、待ちきれなくなったら早く迎えにきてください。
遅くなるのは嫌ですが早くなる分には構いませんので」
謙信「そうだな。悠長にふた月などと言わず、ひと月で済ませるか」
何やら物騒な光を目に浮かべ、謙信様が遠くを見ている。
(佐助君とか家臣の人達が巻き込まれなきゃいいけど…)
思い立ったらすぐ行動にうつしそうな謙信様にいささか不安を覚えた。