第12章 看病七日目 木製の鈴
「はぁ、あったまる……」
生姜の辛さと蜂蜜の甘さで身体がポカポカしてくる。
部屋には火鉢しかないので、温かい飲み物がとてもありがたい。
コンコン
(ん?)
もう少しで飲み終わるという時に音がした。咄嗟に襖の方を見ても人の気配はない。
(まさか…)
湯呑を置き、立ち上がった。
「……どうぞ」
佐助君とは夕方別れを済ませた。
(佐助君じゃない)
天井板が外される音が聞こえ、急いで部屋の灯りを吹き消した。
ふっ
直後、音もなく黒い影が舞い降りる。
「…………っ!」
案の定、立ち上がった忍び姿は佐助君ではなく
…黒い装束を纏った謙信様だった。
頭巾を取り、顔を露わにすると大股で近づいてきて私を抱きしめた。
数刻離れていただけなのに、腕の感覚がとても懐かしい。
(謙信様だ……)
嬉しさで堅い胸板に頬を摺り寄せた。
「どうしたんですか?」
声をひそめて聞くと謙信様は腕の力を強めた。
謙信「どうしたもこうしたもない。ただお前が恋しくなって会いに来ただけだ」
静かな口調の奥に、隠しようもない熱があった。
謙信「この地を離れるその時まで、一時も舞と離れたくない。
今宵はここで過ごす」
(ここに泊まるってこと?大丈夫なの?)
敵の城で寝るなんて、なんて大胆な方なんだろう。
「大丈夫なんですか?」
現代と違い部屋に鍵をかけるなんてできない。
(いつ誰が入ってきてもおかしくないのに…)
謙信「余程の無礼者でない限り、灯りの消えた姫の部屋に上がり込む輩はおらぬだろう」
謙信様は脱いだ頭巾と手袋、背負っていた刀を布団の傍に置いた。
そうして布団をめくって私を誘った。
(本当に寝る気だっ)
秀吉さんや三成君のように誰か部屋を訪ねてこないだろうかと心配する反面、誘惑に勝てずフラフラと布団に入った。
謙信様は腕枕をしてくれて、私は身体をぴったりとくっつけた。