第12章 看病七日目 木製の鈴
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その日は早めに夕餉を済ませ、戌の刻(19時)には寝仕度を始めた。
目まぐるしい一日だったので疲労を感じる。
(謙信様と一緒にお昼寝したけど、なんだか眠い…)
着物を脱いで夜着に手を伸ばしたところで手をとめる。
「あ、襦袢を替えなきゃ」
宿で借りた襦袢は後日洗わずに宿へ返すように言われていた。
理由を聞くと『姫が城のモノではない襦袢を身に着けていたと知れば女中達は必ず不審に思い、信長に報告するだろう』そう言われ、重ねて忠告された。
『女中には気をつけろ。やつらは不審な点があればすぐ報告するよう教えられている』
見張られている、そんな感じがして息苦しさを感じたけど、不審な点を報告することで城の安全を守っている。
彼女たちの仕事なんだと思えば、気が楽になった。
「……」
着替えを済ませ、宿の襦袢は綺麗に畳んで仕舞いこんだ。
立ったついでに部屋の灯りを消そうとした時、襖の向こうから呼びかけられた。
三成「舞様、よろしいでしょうか?」
男性にしては少し高めの声。
昼間の出来事を思い出してドキリとした。
「…はい、少し待ってね」
夜着の上に一枚羽織って襖を開けた。
私の姿を見て三成君が紫色の瞳をパチパチさせ、戸惑いがちに口を開いた。
三成「申し訳ありません。お休みになるところだったのですね。
秀吉様からこれを届けるように言われてお持ちしました」
渡された大きめの湯呑には生姜湯が入っていて、香りを嗅いだだけで身体が温まるようだった。
緊張がふと緩んだ。
「わぁ、いい香りだね。三成君、ありがとう。秀吉さんに明日お礼を言わなきゃ」
三成「秀吉様には私から伝えておきますよ。
お疲れだと聞きましたので、これを飲んでゆっくりお休みくださいね」
「うん、ありがとう。三成君こそ秀吉さん達が留守の間、ずっとお城を守ってたんだから疲れているでしょ?ゆっくり休んでね」
三成「ありがとうございます。舞様はお優しいですね」
三成君は天使のような笑顔をふわりと浮かべて帰っていった。