第1章 触れた髪
「お、美味しい。凄く!」
保存料や添加物がないこの時代、取れたて、加工したての材料を出来立ての状態で提供される。
現代からきた私にしてみれば贅沢な味わいだ。
幸村「だろー?遠慮なくいっぱい食えよ。
ちなみにこの店の二番人気はそこの草餅って、ないっ!?信玄様?」
幸村が驚愕の表情で信玄様を見た。
信玄「知らないな。草餅なんてあったかな」
(草餅……さっき見た)
幸村「皿!その空いた皿が証拠です!」
信玄「これは取り皿じゃなかったか?」
幸村「往生際が悪いですよ、信玄様!」
(も、もう駄目だ)
こらえきれなくなって吹き出してしまった。
(なんだか信長様と秀吉さんみたい)
秀吉さんが金平糖を隠しても隠しても信長様は探し出して食べてしまう。
ついこの間も秀吉さんがくどくどお説教していたのを見たばかりだ。
「ふ、ふふ!信玄様と幸村はとても仲が良いんですね」
信玄「やっと笑ってくれたな。
女の子は笑っている顔が一番だ」
「そんなこと……」
信玄様はサラリと甘いセリフを吐き、甘味のお皿に手を伸ばす。
それをバシッと叩いて阻止したのは幸村だ。
幸村「今日だけで4日分くらい甘味を食べたんですからね。明日からしばらく甘味はないと思ってください。
舞!信玄様にいちいち反応してたらキリがないんだからな、聞き流せ!」
信玄「やれやれ、本当のことなのになぁ?」
同意を求めるように顔を覗き込まれ、困ってしまう。
甘いセリフも眼差しも、今まで経験のないものだったから。
もじもじしていると頭の上に大きな手がのせられた。
信玄「可愛いな。初めて会った夜は美人だと思ったが、日の下でよく見ると君は可愛いが先に立つ」
「し、信玄様?えっと……ありがとうございます。
信玄様と幸村もタイプは違いますがとっても素敵だと思いますよ」
信玄・幸村「「たいぷ?」」
「あ、えーっと、質(たち)で合ってるのかな…。
性格も、雰囲気も顔立ちも全然違うんですけど、それぞれ素敵な人だなって」
幸村の顔が初々しく赤く染まり、信玄様は大人の余裕を滲ませた笑みを浮かべた。