第12章 看病七日目 木製の鈴
抱かれた余韻で足腰に力が入らず、部屋でゆっくり過ごしていると誰かが部屋を訪ねてきた。
??「舞、居るか?」
少しぼーっとしていた私は座布団の上で飛び上がって居住まいを正した。
「秀吉さん!?どうぞ」
襖がすっと開いて秀吉さんが入ってきた。座布団をすすめてお茶を用意していると、
秀吉「しばらく留守にしていたが変わりなかったか?」
急須に蓋をしようとして指が震え、カチャリと音が鳴った。
「うん…じゃなかった。城下にいる友達が流行り病にかかっちゃって。
三成君に許可をもらって7日間ほど看病に通ってたんだ」
(正直に答えられるところは答えないと)
秀吉「ああ、それなら三成に聞いた。大変だったな。
もうそいつの病は治ったのか?お前の身体は大丈夫か?」
身体、と言われ、至る所についているキスマークが疼くようだった。
(っ、違う。秀吉さんは流行病がうつっていないか心配してくれてるのに)
秀吉「気のせいか、さっきから顔が赤く見える」
秀吉さんが顔を覗き込もうとしてきたので身体の前で両手を振って否定した。
「私は平気だよ!うつらないように自分なりに気をつけたつもりだし。
念のため、数日間はお城の人と接触しないようにするね」
秀吉「少しでもおかしいと思ったら俺に言えよ」
そう言って頭を撫でてくれる優しさに、心がチクリと痛んだ。
「秀吉さん……ごめ、じゃない、ありがとう、いつも心配してくれて」
秀吉「水くさいこと言うな、俺はお前の兄がわりだろ。もっと甘えて欲しいくらいだ」
「うん…」
優しい言葉を聞く度に心がチクチク痛む。
前は……7日前までは感じなかった痛みだ。
(これは謙信様と想いを交わしてしまった代償…)
安土の皆と心から笑えていた日がキラキラと輝き、眩しくて……とても痛い。
秀吉「なぁ、本当に大丈夫か。今度は元気がなさそうに見える」
「大丈夫!友達が元気になったからかな、気が抜けちゃったみたい。
人と接触できないから明日からはこの部屋で針子の仕事頑張るね」
秀吉「やり過ぎないようにしろよ。今日から信長様も俺も城に居るからな、安心して仕事に励め」
秀吉さんはいつものように頭を撫でて部屋を出て行った。