第12章 看病七日目 木製の鈴
「はい。お待ちしています!私もその間、お世話になった皆にできる限りのお礼をしたいと思います」
もっとかかると思っていたのにふた月と言われて面食らった。
寂しいという気持ちは吹き飛び、安土の皆にどうやってお礼をしよう?と慌ただしく考えた。
ゆっくりしているとあっという間に過ぎてしまいそうだ。
謙信「お礼は良いが…あまり無防備に男に近寄るな。
舞は人との距離を近くとりすぎる。最初は俺でさえ戸惑ったものだ」
「…?はい、心がけますね!」
謙信「わかっていると思うが俺と恋仲になったのは誰にも言うなよ」
「わかっています。謙信様がお迎えに来るまで誰にも言いません」
謙信「舞に誰かが手を出さぬか心配だ…」
はぁ、とため息を吐く顔はとても真剣だ。
「くすっ、大丈夫です。そんなにモテないですから」
謙信「鈍感、鈍い、呆けている、そう言われたことはないか?」
「なっ、なんですかそれ!…でも言われたことあります。全部…」
反抗しようとして考えてみれば、全て言われたことがある。
現代でというより、安土の皆によく言われている。
謙信様は不安を募らせたのか眉をひそめ、
謙信「そうであろうな。お前は自分の魅力に全く気付いていない鈍感女だ。
護衛は無理だろうが、時々身辺を探らせて報告させる」
「鈍感女だなんて、ひどいです…。
身辺を探らせるっていうことは、佐助君みたく城に忍び込んで報告させるってことですか?」
謙信「ああ、そうだ。案ずるな、俺の忍びは優秀なものばかりだからな」
自信たっぷりに言う謙信様に素朴な疑問をぶつける。
「じゃ、じゃあ、私が気づかないで着替えをしていたら見られちゃう可能性もあるんですか?」
髪を撫でていた手の動きがピタリと止んだ。
声が一段低くなり、若干表情が怖い。
謙信「それもそうだな。軒猿に女はいない……考えておく」
「ふふっ、謙信様って面白い方ですね」
作り物のように整った顔が、さっきからコロコロと変わってとても人間らしい。