第12章 看病七日目 木製の鈴
謙信「……ずっとお前の寝顔を見ていた。愛らしくて眠るのが惜しい…さっきのは寝たふりだ」
「寝たふりっ!?私は寝てから今まで、ずーっと謙信様に見られていたってことですかっ!?」
謙信「そうだ。何やら寝言も言っていたし、口も少し開いていたぞ」
(嘘っ!?)
ばっと自分の口を隠す。
「……恥ずかしくて合わす顔がないです」
謙信様みたいに飛びぬけて整った顔なら口を開けて寝ていても『かっこいい』で済むけど、私はそうじゃない。
とてもじゃないけど『可愛い』と言われるような寝顔じゃない…多分。
謙信様の胸に額をくっつけて顔を隠す。
謙信「それは困る。充分愛らしいと何度言えばわかる?」
慰めるように髪を梳かれて、幾分気持ちが落ち着いてきた。
でも恥ずかしさは残り、顔はあげられない。
謙信「……お前といると、時があっという間に過ぎるな。
もうそろそろ帰り仕度をした方がいい」
「っ!まだ早すぎませんか?もう少し…一緒に居たいです」
まだ夕暮れには早い。あと少しだけ、こうしていたい。
「次にお会いできる時までの分、まとめて抱きつかせてください」
背中に手を回してぎゅっとしてみる。
しなやかな身体に自分から触れてドキドキする気持ちと、迫りくる別れの切なさが重なる。
(もう少しでお別れだ…寂しいな)
謙信「……弥生(3月)のはじめには迎えに来る。
それまでに家臣達を説得し輿入れの準備をしておく。
越後に遅い春がきたなら、花が美しく咲き乱れる日にお前と祝言をあげよう」
祝言と聞いて思わず顔を上げた。
謙信「ふた月と少しだ。待っていられるか?」
切れ長の瞳が心配そうに細められた。