第12章 看病七日目 木製の鈴
謙信「よい。俺の足で温めろ。こんなに冷たくては寝られないだろう?」
「は、はい」
腕の中に閉じ込められ、謙信様の香りと温もりに包まれる。
私の頭に顎を乗せたのか、コツンと堅い感触がした。
謙信「女とはかように細く、小さな存在だったか…。
わかっていたつもりだったが、こうして触れていると改めてそう感じる。
力をこめたら手折(たお)ってしまいそうだ」
たしかめるように背骨や、肩甲骨、首筋に触れられる。
「ふふ、大丈夫です。謙信様が思うよりも頑丈ですよ」
身体を弄(まさぐ)る指がくすぐったくて身悶えする。
頭の上で謙信様が笑う気配がして、
謙信「お前はどことなく兎に似ている。こうして撫でると、少し震えるところが」
「うさぎですか?可愛い動物にたとえてくれて嬉しいです。
そういえば越後のお城にうさぎが居るんでしたね、何羽くらい居るんですか?」
謙信「最初は3羽だけだったが、気が付けば数えきれないほどになっている。
たまに庭に降りれば纏わりついてきてかなわん」
謙信様の足元にまとわりつくうさぎを想像してしまい、笑いがこみあげてくる。
「ふふっ、動けん!って言いながら撫でてあげるんでしょうね、謙信様は優しい方だから。」
謙信「俺を優しいなどと言う女はそう居ないぞ?」
「そうですか?とてもお優しいと思いますが…」
体温を分けてもらっている足がぬるくなってきた。温まるのはきっとすぐだ。
堅い胸に頬を寄せるとたまらない幸福感に襲われる。
「謙信様。こうしていると、すごく幸せ…で…す」
大好きな人に抱きしめられて、身体がポカポカして安らいだ気持ちになる。
謙信「俺もだ。ゆっくりおやすみ……」
(おやすみなさい)
心地良く穏やかな気持ちで意識はすっと落ちた。