第1章 触れた髪
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謙信様とお酒を飲んだ日から数日後。
今日もまた爽やかな秋風が吹き、目にも鮮やかな青空が高く広がった。
(ええと、今日の用事はこれでおしまいだな)
城下に降り、用事が済んだのは昼前くらいだった。
朝から結構歩き回ったので喉が渇いた。
(ちょっとだけ、お茶をしようかな)
武将くまたんのために節約中だったけど、喉が渇いて仕方がなかった。
近くにあったお茶屋さんに入ろうとすると知っている声が聞こえてきた。
?「またそんなに甘味を頼んだんですか。
主人!悪いがこれとこれとこれは持ち帰る、包んでもらえるか?」
??「おいおい、人の甘味を勝手に持ち帰るな。
今すぐ食べた方が美味しいに決まっている」
?「あ!大福を一口で食わないでくださいよ。喉に詰まったらどうするんですか!!」
(この声って…)
声の方角を見ると案の定、信玄様の首根っこを掴まん勢いで幸村さんが怒っている。
知っているけどよく知らない人達だ。
人見知りも手伝って挨拶をしようか戸惑っていると信玄様と目が合った。
信玄「やあ、天女。そんなところに居ないで一緒にどうだい?」
「あ……」
歩み寄ってきた信玄様にスマートに手を取られ、気づけば隣に座らされていた。
幸村さんとも目が合い、お互い戸惑った視線を交わし合った。
(ど、どうしよう。佐助君も居ないし…)
何か話さなきゃと思っても共通の会話がなくて困る。
信玄「そんなに緊張しなくても良いさ。主人、お茶をもう一つ」
主人「はい」
すぐにお茶が目の前に置かれた。
「ありがとうございます、信玄様。
幸村さんも、こんにちは」
恐縮してお茶に手を伸ばせないでいると信玄様がくすりと笑った。