第11章 看病七日目 愛を交わす(R18)
(謙信目線・回想)
謙信「誰の許しを得てここに居る。早う去れ」
自室の襖を開けるなり俺は鋭く言い放った。
そこには褥が敷かれ襦袢姿の女が震えて座っていた。
またか、と怒りを通りこし呆れる。
最近頼んでもいないのに部屋に女が用意されている。
女の顔には見覚えがあった。
今夜の勝利の宴で、武功を立てた男の傍に控えていた。
広間の雰囲気に馴染まず、息を詰めるように座していたのを思い出す。
謙信「大方、父に命じられてここに居るのだろう。女にかまっている暇はない。
わかったらさっさと出ていけ」
女は褥に頭を擦りつける勢いで頭を下げている。
娘「どうか一度だけで良いのです。お願い致します」
謙信「出ていけと言ったのが聞こえなかったか」
褥を乱暴に踏みつけ、女の片腕をとって立たせようとする。
不意に涙目の女と目が合った。
女は俺が入ってきた襖とは逆の襖の方を見て、声をひそめた。
娘「どうか……私を助けると思って」
14,15の娘は幼さを残しており、最近喪った女を思いおこさせた。
この部屋に入り込んできたどの女とも違う切羽詰まった様子が気にかかった。
謙信「どういうことだ」
娘「……あの……」
娘の視線がまた襖に移動する。
(気配がするな)
事情くらいは聞いてやろう。
声を落とし再度訊ねた。
謙信「…訳を話せ」
娘「私は将来を約束した殿方が居ます。ですが父は謙信様の室に入れたいと言い張り許してくださいませんでした」
(誰が妻を娶ると言ったのだ。勝手に画策しおって)
眉間に深く皺が寄った。
娘「今夜謙信様と一夜を過ごしたなら、ひと月後その男の仲を認めると……そう言われ…」
伏せられた目から大粒の涙がこぼれた。
謙信「……愚かな」
(何故にそのような惨いことができるのか)
一夜を過ごし子を身籠ったなら恋仲の男とは別れ、室に入ることになる。
室の父親として上杉に確固たる地位が約束される。
父親の思惑が明け透けで吐き気がした。