第1章 触れた髪
謙信「勝手に怒って、よそ見をするからだろう」
(あれ?すこし拗ねてる?)
それでも一瞬後には、いつもの感情の読めない表情になり、立ち上がった。
謙信「酔いは覚めてきたか?もうそろそろ行くぞ」
「あ、はい!」
急いで立ち上がったせいで、少しふらつく。
謙信様の手が、目の前に差し出された。
(?)
謙信「また転ばれては困る。手をとれ」
(…優しいな)
『ああ見えて悪い人じゃない』と言っていた佐助君の気持ちがよくわかる。
ソロソロと謙信様の手をとった。
さっきは強引に手を繋がれてお寺まで来たけど、今度は優しく私の手を握ってくれた。
その手の大きさに男の人を感じてしまい、くすぐったい気持ちになる。
謙信「…行くぞ。大通りまでで良いか?」
「はい!あの、ありがとうございます。
謙信様はとてもお優しいですね」
謙信「また戯言を…」
そのまま謙信様に手を引かれ歩き始めた。
日が落ちて暗くなってしまった道を謙信様は迷いなく歩く。
街灯もない真っ暗な道は本来なら怖いはず…なのに、繋いだ手から伝わる謙信様の温かさを感じていると、全然怖くなかった。
舗装されていない道に時々足を取られたけれど、その度に謙信様がそっと支えてくれて、無事に大通りに着くことができた。