第10章 看病七日目 逃避と告白
「謙信様!?」
謙信「しっ、少しの間こうさせてくれ」
謙信様は私をかき抱いた。
鍛えられた体を全身に感じて頭の芯がしびれた。
(謙信様が私を好きだったなんて)
信じられない、そう思うのに、
頬には堅い胸板の感触
背中には逞しい腕の感触
私の体は……謙信様の香りに包まれている。
口から心臓が飛び出てきそうだ。
(謙信様に抱きしめられてる…)
甘い感動が体を駆け巡る。
「っ」
心臓がせわしなく動き、呼吸がしづらい。
謙信「お前の心の臓が壊れそうだな」
謙信様は苦笑して身体を離すと、顔を覗き込んできた。
どうやら体を伝わってばれてしまったようだ。
「今更ですが信じられないんです。謙信様が私を好きだなんて」
謙信「信じられないか?」
私は自分の頬をつねってみる。
謙信「…何をしている?」
「夢なら覚めるかなと頬をつねってみました
…目が覚めません」
つねっていた頬に、謙信様は長い指を滑らせた。
謙信「当たり前だ。お前は起きているからな。
夢じゃない、俺はお前を好いている」
おかしそうに笑った顔はとろけるように甘かった。
普段のクールな印象とは真逆の笑顔に心臓が射抜かれる。
(こんなに素敵な方が私を…本当に…?)
少しずつ実感が湧いてきた。
謙信「信じてくれないのか?」
笑いを引っ込め、真顔になった謙信様に見つめられる。
瞳の奥が不安そうに揺れていた。
(軍神と名高い立派な人が、私の心の内を気にして不安になってくださっている)
こんなどこにでもいるような女なのに。
私にはもったいない、立派な方なのに。
全然釣り合ってないじゃないってわかるのに、それでも嬉しくてどうしようもない。
(……この想い、もう止められない)
恋焦がれていた相手が、私を好きだと言ってくれたんだから。
「私は国に帰らねばと思うのに……本当はずっと、謙信様をお慕いしていました」
(やっと…正直に言えた)
押し殺すしかなかった気持ちを伝えることができた。
背中に回った腕に力が籠った。