第10章 看病七日目 逃避と告白
くすぐるように頬を撫でられ目を開けると、美しい双眸が一心に私を見ていた。
何度見ても美しい色だと思う。
(お傍にいられたらこの眼差しを…ずっと見ていられるのかな)
想像しただけで幸せで、胸がいっぱいになった。
「謙信様の緑と青色の瞳が…いつも綺麗だなって思っていました」
突然の発言に謙信様は目をしばたかせた。
謙信「何を言うかと思えば。秋に城下で会った時に『綺麗』だと言ったのは目のことか?」
「っ!聞こえていたんですか?」
謙信「あのように間近で囁かれて聞こえぬはずがなかろう」
「聞こえていたのも驚きましたが、あんな些細な会話まで覚えていたんですね」
謙信「お前は出会った頃より妙に気にかかる女だった。
ゆえにお前と交わした会話はほぼ覚えている」
謙信様が右手人差し指で自分のこめかみをつついた。
「そうなんですね………。ふふ、嬉しいです」
嬉しさがこみあげ、謙信様が好きだという気持ちでいっぱいになった。
箍(たが)がはずれた心は今まで抑え込んでいた気持ちを一気に解放した。
(早く伝えなきゃ)
私が『帰らない』と返事をしないから、さっきから謙信様の瞳の奥に不安がずっと漂い続けている。
「謙信様、私もあなたのことが好きです。国へ帰るのはやめようと思います」
謙信様は一瞬動きを止め、私の唇を指でなぞった。
謙信「もう一度……言ってくれ」
(も、もう一回!?は、恥ずかしい)
熱っぽい視線でそう言われると断れない。
すーっと息を大きく吸って言葉を紡ぐ。
「謙信様が好きです。息をしているだけでかっこいいのは…謙信様のことです。
国へ帰るのは諦めます。お傍に居ても良いですか?」
頬が火照って仕方ない。でも同じくらい謙信様の頬も赤く染まっている。
目元を赤く染めたところは何度か見かけたけど、頬が染まっているのは初めて…。
そうさせたのは私なんだと、くすぐったい気持ちになる。
お互い目を逸らすことなくしばし見つめ合っていると、急に身体を起こされ真正面から向かい合わせになった。
謙信「もっとこちらへ…」
腰と背中に回された腕に強く引き寄せられた。