第10章 看病七日目 逃避と告白
トクン、トクン……トク、トク、トクトク……
心臓が軽く弾むような音を奏で始める。
真正面から気持ちをぶつけられ引き留められて、懇願されて我慢できるはずがない。
謙信様の傍に居たいという思いが、抑えきれずにあふれ出した瞬間だった。
歴史を変えるかもしれないという心配や恐れは消えない。
でも謙信様と佐助君に相談しながら手探りでやっていけばなんとかなるかもしれない。
答えを口にする前に目を瞑った。
(本当にいいかな…)
答えは出ているけど、もう一度自問自答する。
そうしている間、身体中に感じる謙信様の温もりに身をゆだねる。
(少しだけ…)
決心する勇気をもらうために堅い胸に頬を寄せると、謙信様がギュッと抱きしめてくれた。
「……」
謙信様の気持ちに応えるということは500年後の世界を捨てること。
考えたくないけど、もし謙信様と上手くいかなくて別れたとしてもこの時代で生きなければいけない。
(この命が消えるまで、ずっとこの時代に生きる決心を……)
胸の前で両手をギュッと握る。
謙信「舞……」
大好きな人が名前を呼んでくれる。
(500年後には…帰らない)
謙信様と一緒に歩む未来に、胸が膨らむような感覚を覚える。
(良いことばかりじゃないだろうけど、謙信様を信じて、支え、支えられ生きていこう)
気分が高揚して口から『はぁ』と息を漏らすと、ため息と勘違いした謙信様が静かに懇願してきた。
謙信「…お前から国を奪ってしまうのは心苦しいが共にありたいのだ」
(謙信様は、想いが通じ合えば私が国に帰れなくなるって知ってるんだ)
佐助君が気を回して忠告してくれたんだろう。