第10章 看病七日目 逃避と告白
謙信「そのような表情も…愛らしいのだな」
「っ!?」
謙信様の満面の笑みを、お酒を飲んでいる時以外で初めて見た。
最早私を好きだと隠そうともせず、気持ちをストレートに伝えてくる。
謙信「舞、俺では駄目か?俺はお前を好いている」
「……」
謙信「愛している。俺の傍に居てくれ……頼む」
「け、謙信様…」
(頼む、だなんて…謙信様ほどの方が…)
私なんかに勿体ないと恐縮していると、謙信様はより顔を寄せて懇願してきた。
褪せた髪が私の顔をくすぐり、香の匂いが鼻先を甘く掠める。
恐ろしいくらい整った顔が、真剣な熱をもって眼前に迫った。
謙信「何度でも言おう、帰るな。
お前の国がどこかは知らぬが途方もなく遠いことだけはわかる。
俺の手の届かないところに行かないでくれ」
固い胸に頬をギュっと押し付けられ抱きしめられる。
謙信「行かないでくれ、舞…」
息が…止まりそうだ。
表情から、声から、本気で謙信様が私を引き留めてくれているのがわかった。
謙信「お前が居なくなると想像しただけで気が触れそうだ。
お前を抱えている問題を俺にも分け与えろ。
必ずお前を守ってみせる」
「でも……」
(謙信様の恋人になること自体が問題なのに…)
グラグラと揺れる気持ちに待ったをかけていると、
謙信「佐助が言っていた。舞と恋仲になりたければ、このまま死んだふりを続け、表舞台に立たないように、と」
「……っ!佐助君がそんなことを?」
(佐助君は謙信様が私を好きだって知っていたってこと?)
でもそう考えれば時々物言いたげな顔をしていた理由がわかる。
佐助君が謙信様にしてくれたアドバイスは歴史を変えないようにという配慮が感じられた。
謙信「詳細は聞いておらぬが舞を手に入れられるなら容易いことだ」
「………」
戸惑い沈黙する私に謙信様は時を与えてくれた。
静かな眼差しで私の髪を梳きながら返事を待っている。
美しい瞳が私を甘く情熱的に誘ってくる。
佐助君と居る時は気が短い面が出ているけど、こうして気長に待ってくれる時もあるんだな、なんて新たな面に甘くときめいた。
頑なに現代へ帰ろうとしていた決心を、謙信様はあっけなく壊した。