第10章 看病七日目 逃避と告白
謙信「お前は嘘が下手だと何度言えばわかる?」
「嘘ではありません」
謙信「目は口ほどにものを言うのだぞ?目が潤み頬も赤い。
脈もさっきからずっと早いままだ」
腕に閉じ込められ、ゆるりゆるりと嬲られる。
(駄目だ…。なんとか切り抜けないと…)
「男性にこんなことをされたら、たとえ好意を持っていなくても赤くなると言うものです。
私の好きな方は安土の武将の誰か、とだけ言っておきます。
謙信様ではありません。わかったら離してくださいませんか?」
謙信「ほう…ならばその者の名を教えよ。次の戦で見(まみ)えた時、八つ裂きにしてやろう。いや、戦などと悠長なことを言ってはおれん。
今宵、城に忍びこび、手を下してやる」
私の嘘などお見通しと言わんばかりに、剣呑な雰囲気を醸し出している。
整った顔立ちに浮かぶ危険な笑みに身体が震えた。
「おやめください。なおさら謙信様には教えられません」
謙信「教えぬと…今宵、一人ずつ命を刈り取ることになるが良いのか。
おれは別に構わんぞ。誰がお前の想い人か知らんが、安土の連中に一対一で挑むと思うとこの上なく血が騒ぐ。
今宵の安土城は大勢の血が流れるだろうな」
(そんな!)
嘘をついたことを後悔する。
このままでは一方的な殺戮が始まってしまう。
「やめてください!ごめんなさい、安土の武将というのは嘘です。
どうか安土の皆に手を出さないで下さい。都合がいいとお思いになるでしょうが、どちらにも傷ついて欲しくないんです」
謙信「では正直に言え」
「…言いません」
謙信「お前も強情だな」
「謙信様こそいい加減諦めてください」
謙信「馬鹿な、俺が諦めると思うか?」
「っ、しつこい男性は嫌われてしまいますよ?
想い人に愛想をつかれても知りませんからねっ」
謙信「むっ……」
痛いところをつかれたのか、謙信様が顔をしかめた。
「お離しください。もうお暇します」
謙信「ならぬ。日が高いうちは帰さない」
すげなく言われ、今度は私が顔をしかめる番だ。
「もう!横暴な方ですね!」
謙信「さっきまでは城に帰りたくないと言っていたのは誰だ」
「……意地悪」
頬を膨らませて抗議すると謙信様の目尻が下がった。
(こっちは怒ってるのに、なんで笑ってるの!?)