第10章 看病七日目 逃避と告白
(落ち着いたらお城に帰ろう。これ以上一緒に居られない)
胸がたまらなく痛い。
上手く呼吸ができないような胸苦しさもある。
座布団から一歩踏み出したところで呼び止められた。
謙信「舞、行くな」
押し殺した低い声が響き、片手を強くひかれて体勢を崩した。
「あっ!」
ぐらりとよろけたのを、謙信様は器用に受け止めて膝の上にのせた。
あまりに鮮やかにやってのけられたので、一瞬自分がどこにいるのか把握できなかったくらいだ。
胡坐をかいた上に乗せられ、肩と腰に回った両腕がしっかりと私を支えてくれている。
下から見上げると、鋭い眼差しが仄暗い悲しみを持って見下ろしてくる。
謙信「どうしても……帰るか」
「さ、先程もその問いにはお答えしました。私は帰らなければいけません」
視線に耐え切れず顔を背けようとするも顎を捕らわれた。
強制的に視線を合わされ、身体の自由も奪われている。
(逃げ場が…ない)
追い詰められた獲物のように身体を震わせることしかできない。
腕に抱き込んだ私に顔を寄せ、謙信様が再度質問をしてきた。
低い声は掠れていた。
謙信「では質問を変えよう。『息をするだけでかっこいい』と、この世で一番の男とは、
…………俺のことだろう?」
「っ、いいえ!違いますっ」
(いつの間にか気づかれていたんだ!)
咄嗟に嘘をついたけど、問われた瞬間に小さく身体が跳ねたのを謙信様は見逃してくれなかった。