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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第10章 看病七日目 逃避と告白


(どうすればって、そんなこと言われても突然過ぎて…)


口が縫い付けられたように開かない。

静寂が広がり、どちらも口を閉ざして見つめあい、数分過ぎた。

寒くもないのに緊張で身体が震え、何か口にしようとするたびに『現代に帰る』という大きな壁が立ちふさがり、口を噤むしかなかった。


謙信「…俺のような厄介な男に好かれ、その女も難儀なものだな」


小さく落とされた言葉には寂しさが混じり、静かな部屋に儚く消えた。


(違う、厄介なんかじゃない。難儀だなんて思ってない!!)


否定したいのに、言葉にすれば謙信様の想い人が私だと認めてしまうことになる。

言葉を発せず、やり切れない思いで首を振る。
苦しい痛みに右手でそっと胸を押さえた。


(応えられない。応えちゃいけない!)


『謙信様の想いに応えてしまえ』と、甘い誘惑が私の心をとらえようとしている。

必死で抗い振り払う。


(帰るんだ。私はこれ以上…この時代の人に関わったらいけないんだから)


たとえ謙信様の心がこちらを向いていようと。


「きっとその方は厄介だとも、まして難儀だなんて思っていないと思います。
 だって……謙信様はとても素敵な方ですもの。
 嬉しいと思うはずです。ですが事情が事情なら、嬉しいと感じても……応えられないかもしれませんね」


言葉が震えるのはどうにもできなかった。
笑いかけながらも締め付ける胸が痛くて堪らない。

もともと透けるように白い顔がすっと青ざめ、歪んだ。

(謙信様を傷つけてしまった)


こらえきれず俯いた。

謙信様の心が私に向いているのに、応えることができない虚しさ。
こんな状況でなければ、私がこの時代の人間だったら、こんなに苦しむことはないのに。

迷うことなくその手を取るのに。


(なんで私はこの時代の人間じゃないんだろう)


我慢しようとしても溢れそうになる涙に、慌てて立ち上がった。


「申し訳ありません、少し席を外しますね」


厠にでも行くふりをして外の風にあたろう。
冷たい風は頭を冷やしてくれるだろうから…。


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