第10章 看病七日目 逃避と告白
(餃子が焼き上がった時に清々しい顔をしていたのは心持ちが変わったからだったんだ)
戦にしか生を感じないと乾ききった目で言っていた顔と、今の表情は全然違う。
生き急ぎ死を望んでいた危うさは消え失せている。
(良かった。謙信様の傷は重たくて深かったから…)
私の言葉や行動が、謙信様の心を救うきっかけになったのなら…良かった。
「少しでもお役に立てたのなら、これほど嬉しいことはございません」
大好きな人の役に立てた。
嬉しくて胸が熱くなった。
心の持ちようを変えた謙信様がこれからどんな生き方をするのか、傍で見られないのが残念だ。
嬉しいのに悲しくて泣きそうになった。
(でも今は笑っていよう…)
謙信様がせっかく前を見て生きようとしてくれているんだから。
少し俯き加減になったところで頭に手が乗せられた。
ひんやりとして安心する手だ。
見上げると近距離で目が合った。
ほんの少し間があって、薄い唇が躊躇いがちに言葉を紡いだ。
謙信「大きな秘密を抱え、何かに苦しんでいるお前を救ってやりたいと思っていたが…
ついに最後までお前は打ち明けてはくれなかった。それが俺の心残りだ」
『心残り』という単語が私達の時間がもうすぐ終わりだと告げている。
ジリっと焦げたような痛みを覚える。
「私の秘密は誰にも言ってはいけないものなので…申し訳ございません」
頭にのっていた手が髪を撫で、頬を羽のように滑った。
謙信「…もしお前の想い人が『秘密ごと全て受け入れるから舞と共に生きたい』と言ったら、お前はどうする?」