第10章 看病七日目 逃避と告白
『あなたのことが好きだから、掴まって欲しくなかった』
それだけだ。
安土で受けた恩に感謝しているのは確かなのに、無下にして恋に走った。
(一般的にいえば『愚か者』だろうな…)
短絡的で愚かな行動だったと思う。
でもさっき謙信様に言ったように後悔はしない。
「何故かは言えません」
現代に帰るんだから。
『好きだから』なんて理由を告げられるはずない。
もう一口お酒を飲むと、苦い気持ちを反映するように舌に苦みを感じた。
さっきまであんなに甘くて香り豊かだと思っていたのに。
(あれ…そういえば)
『お酒の味が変わるとしたらどんなときだろうね』という佐助君の言葉を思い出した。。
結局あの質問の答えは出ないままで、佐助君に答えを聞くのを忘れていた。
(さっきまで飲んでいたお酒は美味しかった。でも悩みながら飲んだお酒は苦かった…)
意味ありげだった佐助君の顔まで浮かんできた。
体調を崩した時だけじゃない、心境の変化でも味は変わる。
『舞さんはお酒を美味しくさせる力があるのかもしれないね』
「……!」
(まさか…そんなことあるわけないよね)
越後で飲むよりも安土で飲んだ時の方が美味しいと感じた理由。
越後で飲んだ時………私が居なかった…から?
酔っているからだろうか。都合の良い可能性を見出して愕然とする。
(まさかだよ。そんなことあるはずない)
だって謙信様にはちゃんと好きな人が居るんだから。
そうだよ、と自分で自分にツッコミをいれて納得する。