第10章 看病七日目 逃避と告白
「謙信様、お酒を召し上がりますか?」
謙信「ああ」
徳利を持ち上げると暖かい。
寒いので燗を付けてくれたのだろう。
「謙信様は熱燗もお好きなのですか?」
お酒を注ぐと、湯気と共にお酒の芳醇な香りが立ちのぼった。
謙信「特に好きというわけではない。
女将が気をきかせて最初のうちは熱燗だがそのうち俺の飲む速さについてこられず冷や酒になる」
口の端で笑うと、謙信様は私の盃にお酒を注いでくれた。
「ありがとうございます」
つい忘れて視線をあげてしまい、しどけない姿を真正面から見てしまった。
男の人に対して『しどけない』なんてあまり使ったことがなかったけど、そのくらい色っぽくて…困る。
「~~、謙信様、その……」
絶対顔が赤い。鏡を見なくてもわかる。
こんな反応したら気持ちがバレてしまうかもしれないのに、艶っぽい姿は刺激が強すぎてどうにもならない。
謙信「なんだ?」
一気にお酒を飲み干し、謙信様がこちらを流し見た。
二色の瞳が色鮮やかにこちらを見ていて、くらっとした。
「なんだか眩暈が…」
謙信様の目が驚きで見開かれた。カチャン!と盃を置いて腰を浮かせた。
謙信「やはりどこか悪いのか。湯あたりしたか?」
さっと手が伸びてきて、お酒が入った盃を奪われた。
盃は膳の上に置かれ、謙信様が改めて私の顔色を見た。
心配そうな顔をしている。
(わーーー!近くに来ないで、傍に寄らないで、そんなに見ないで)
一口もお酒を飲んでいないのに視界が回る。
そのくらい謙信様にほだされてしまった。
目の前には息を呑むような美貌があって、はだけた着物から鎖骨やら白い肌がチラ見えしていて……咄嗟に視線をずらす。
(う…鼻血がでそう)
「だ、だ、大丈夫です。気のせいだったようです。治りました!」
心臓がバクバクうるさくて、それを無視して『美味しそうですね、いただきます』といそいそと食事に箸をつけた。
謙信様は訝し気な顔をしながら見守ってくれて、しばらくするとまたお酒を飲み始めた。