第10章 看病七日目 逃避と告白
――――
――
隠れ家の宿屋に舞を連れ込んだ。
改めて話を聞いてみると、やはりというか何も考えずに俺を助けたようだ。
裏切り者として牢に入れられたとしても後悔はしないなどと愚かなことを言う。
舞が投獄されるなど想像しただけでおぞましい。
お前は牢で何が為されるか知らぬだろう?
爪を剥がれ、指を切り落とされ、手足を拘束され、水で責められ……
女の尊厳を踏みにじられることさえあるというのに。
それでも後悔しないというのか
それほどの想いで俺を助けるのか
お前にそんなことを望んでいない。傷一つ負って欲しくないのだ。
浮かぬ顔をしていたせいで舞が誤解して謝ってきた。
「迷惑だったでしょうか。余計なことをしてしまったのなら謝ります」
謙信「いや、迷惑ではない」
迷惑だと言ってやれば無鉄砲な行動を控えるかもしれないが、あの時は舞を追いかけ、探しているところだった。
手放そうとした女に会えて…嬉しかった。
「謙信様はなんであんなところに居たんですか?てっきりお部屋で旅仕度をしているものと…」
謙信「……っ」
問いかけられ胸が騒(ざわ)めいて落ち着かなくなった。
情けないことに気持ちを伝えることに恐れを抱いた。
心落ち着くまで時が欲しい。そう思い女将の言葉に甘えることにした。
謙信「この話はあとだ。この宿は広い湯殿がある。
この数日働いた疲れを取ってくるといい。走ったせいで髪が乱れてしまっている」
舞は尻切れになってしまった話を気にしながらも髪に触れ、湯殿に向かっていった。
――――
――
廊下を歩いていく足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
部屋に一人になり片手を髪に突っ込んで握り締めた。
謙信「はぁ。どうしたというのだ」
(気持ちを伝えるのではなかったか。怖気づくなどと…)
謙信「だがどうやって舞に伝えれば良いか…」
相思相愛なのはわかっているが、舞は知らぬところだ。
国へ帰るという固い決心を打ち砕くのは中々に大仕事だ。
謙信「食事も酒もまだだ。俺も湯に浸かってくるか」
(舞の決心を砕く方法を考えねば……)
思考を奪われたまま湯に浸かり、すっかり茹であがったのは俺だけが知る失態となった。