第10章 看病七日目 逃避と告白
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(舞っ…間に合えば良いが)
城に入ってしまえば夜を待って忍び込むしかない。
(夜までなど待っていられない)
通りを走っていると、路地裏に人が隠れている気配がした。
不審に思い足を緩めて気配を探っていると路地裏から冷えた風が吹いてきた。
(何故路地裏に身を潜めているかわからぬが……みつけた)
湧き上がる感動を抑え、芳しい花の香に向かって話しかけるのと、舞が伺うように顔を出すのが同時だった。
謙信「……こんなところで何をしている?」
舞が目を瞬かせたと思うと真顔で俺の手を引き寄せた。
「謙信様っ!こっちへ」
ただならぬ雰囲気と、いつにない強引な手の引き方に何かあったのだと知った。
(良からぬ者に追いかけられたか)
見れば手に持っていた荷物が減っている。
どこぞに放り出して逃げてきたのか?
辺りを探ったが怪しい人影はない。
舞は俺に会えて心底安堵したようだった。
「謙信様の目撃情報が入り、三成君がこの長屋付近を見回っているんです。
部屋から出ないように伝えに来たのですが…」
舞が俺に会えた安堵と後ろめたさの入り混じった表情で告げ…不意に動きを止めた。
(あの声は石田三成か)
石田三成と長屋の住人の話を聞いて、状況を知った。
(間の悪いことだ)
舞に想いをぶつけようとした矢先に邪魔が入った。ひとまず舞を返して夜忍んでいくしかない。
『お前は帰れ』と告げようとしたが舞は決然とした表情で言った。
「部屋に戻っては見つかってしまいます。逃げましょう」
自分の襟巻をとって広げ、俺の頭にふわりとかぶせてきた。
狭くなった視野の真ん中に舞の顔があり、じっと見つめた。
俺の身を案じ戻って来たばかりか共に逃げようというのか。
(後ろめたい気持ちでいっぱいであろうに…)