第10章 看病七日目 逃避と告白
佐助「ええ、もちろんそのつもりでいます。
これからの謙信様がどうなるか非常に興味深いですし、ヒロインを傍で見守っていた男が、実は淡い恋心をずっと秘めていた、なんてドラマチックで良いと思います」
謙信「どらま…?まったく、貴様は真面目なのか不真面目なのかわからん」
こちらが真剣に気遣っていたというのに、ふざけた返しに呆れかえる。
しかしこういう飄々としたところは俺が持ち合わせていないところでもあり、面白い。
謙信「舞を追いかける。お前は恋仲、恋仲と言っていたが、俺は舞を妻に欲しい。
覚悟ならとっくに出来ていた。あとは舞の心次第」
舞から贈られたお守りを懐から取り出す。
桃色のそれに書かれた文字を今一度確認し、握り締めた。
外套を羽織ると舞の残り香が身体を包んだ。
(っ、芳しい)
大荷物を持ち、ゆっくりとした足取りだったが大通りに出た頃合いだろう。
急いた気持ちで草履を履いていると佐助が見送りに立った。
『当たって砕けてきてください。ふられたらお酒に付き合います』などとふざけたことを言う。
同じ言葉で俺を励ました二人はやはり同郷で、仲が良いのは間違いない。
滑りの悪い木戸を勢いよく開け、俺は背を押されるようにして外へ踏み出した。