第10章 看病七日目 逃避と告白
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通ったことのない細く暗い道を走り抜けた。妖しい身なりをした人達とすれ違い、うすら寒い感覚を覚える。
今まで知らなかった城下の裏を垣間見た気がした。
「はぁ、はっ」
口呼吸が続いたせいで喉がヒリヒリして、着物の裾が足に絡まって走りにくい。
謙信「もう直ぐだ」
気配を探りながら走る謙信様は研ぎ澄まされた一本の刀のようで、一緒に居れば大丈夫だと絶対的な安心感があった。
どこをどう走ったのかわからなくなった頃、一軒の宿の前に出た。
謙信様は私を先に宿にいれてくれて、自分は追手の有無を確認して後から入ってきた。
宿の門をくぐり玄関に入ってしまえば、さっきまでの逃避行が嘘のように落ち着いて雅な雰囲気に包まれた。
掃除の行き届いた玄関には盛り塩が置かれ、陶器の花器には品よく冬の草花が生けられている。
焚かれたお香の香りが気持ちを落ち着かせてくれた。
来客の気配を感じて、艶々に磨きこまれた廊下の奥から静々と足音がした。
30代くらいの淑やかな女性が現れ謙信様の顔を見るなり驚いた顔をする。
??「謙信様、ようこそお出でくださいました」
「女将、部屋を頼む」
女将「承知いたしました。すぐに用意をさせます」
部屋が整う間、女将さん自らお茶を煎れてもてなしてくれた。
女将「お連れ様もどうぞ」
謙信様にはお茶だけで、私にはお茶請けに一口サイズのお饅頭がついてきた。
(わぁ、嬉しい。お腹すいてたんだよね)
昼食もとらず走り回ったものだから、すっかりお腹はすいて喉もカラカラだった。
「ありがとうございます。いただきます」
小さいお饅頭を二つに割って一口食べる。疲れた身体にお饅頭の甘さがありがたい。
美味しさに頬が緩んだ。
「お、美味しい。謙信様も召し上がりますか?」
ついこの間のように『あーん』とやりそうになってはたと気づく。
謙信様も私の行動をいち早く予測して首を振った。
謙信「俺は良いから食べろ」
気まずそうに顔を背けた横顔がほんのりと赤い。
女将さんが『あらあら…』と小さく呟き、上品に微笑んでいる。
「あ、すみません…つい」
女将「かまいませんよ。ああ、お部屋の準備ができたようです。
ご案内致しますね」