第9章 看病七日目 岐路
(佐助目線)
舞さんを見送ったあと、謙信様は無言だった。
火の気のない竈はひっそりと静まり、綺麗に掃除された部屋は閑散としていた。
舞さんが居なくなっただけで寒々しく暗い。
空虚な空気をものともせず、謙信様は淡々と明日の話をする。
謙信「佐助、出発は明日の早朝だ。馬の手配は済んでいるか?」
佐助「その前に、舞さんに何も言わないつもりですか。
彼女が帰ってしまったら二度と会えないんですよ?」
謙信「なんのことだ。あの女が国に帰るからどうだというのだ」
こちらを睨む物憂げな表情はいつものことだが、隠しようもない恋情が滲んでいた。
佐助「謙信様は舞さんが好きなんですよね?」
謙信「好いてなどおらん」
取り付く島もない。顔にはありありと舞さんが愛しいと書いてあるのに。
だが今を逃せば後がない。謙信様の気持ちが本気なら、今、引き留めにいってもらわなければいけない。
日を改めて、なんてできない状況だ。
佐助「舞さんから聞いたんですが、謙信様は一度彼女を引き留めていますよね」
俺に知られていたのを気まずく思ったのか謙信様の視線が下に落ちる。
観念したのか重い息を吐いた。