第9章 看病七日目 岐路
(自分を卑下する必要はなかろう。今のお前は安土の姫だ、釣り合いを気にすることはなかろうに。身分抜きでもお前は人を惹きつける魅力がある)
謙信「いつもの勢いはどうした?俺には当たって砕けてこいと言いながら、お前は縮こまっているだけか?」
「叶う叶わない以前の問題で、こちらの人と恋をしてはいけないんです。
私が国に帰らないと……そうしないと…大変なことになるんです」
泣きそうな顔で必死に訴えてくる。
今の状況を脱するための誤魔化しではなさそうだ。
「私一人の無責任な行動が大勢の人間に影響を与えるかもしれないんです。
何も聞かず、私が国へ帰るのをお許しください」
舞が抱えている秘密の断片を見た気がした。
具体的にわかった訳ではないが、個人の手には負えない、事は大きな問題なのだと理解できた。
城主として国を治めていたから、その煩わしさや縛りの強さは理解してやれる。
ひき寄せていた手の力を緩めた。
緩めたくはないが、解放してやらねばならない。そうしなければ舞は苦しむだろう。
謙信「なんとしても帰るというのだな?」
「はい」
謙信「わかった。問い詰めてすまなかったな」
もうこれ以上引き留められない。これ以上踏み込んだら苦しめることに繋がる。
事情を全て知ったなら供に乗り越えられるか…それもわからない。
聞いても舞は話してくれないだろう。
それほど重大な秘密を共有するには『深く関わる』必要があるだろうから。
だが舞は頑なに深く関わっていけないと決めている。
(なら…俺には手出しできぬ)
体から力が抜けるようだった。
一時頭を整理していると食材を持って出かけた佐助が帰ってきた。
佐助が帰るのかと聞き、舞がうんと答えているのをどこか遠くで聞いていた。