第9章 看病七日目 岐路
(恋仲ではない!?)
シンとした沈黙の後、
謙信「なっ…んだと!?何故今まで偽っていた!」
俺の勢いに負け、舞の涙がひっこんだようだ。
「何度も訂正しようとしましたがその度に邪魔が入って…」
舞は申し訳なさそうに謝ってきて、俺は衝撃を受けながらも記憶を辿った。
謙信「確かにお前達の口から恋仲だとは一度も聞いていないな…。
それにお前や佐助が何かを言いかけてやめたことが何度かあった」
時々感じていた違和感の正体がわかった。
友人なら背中の傷を見せるわけにはいかない。友人が国へ帰るというのを強く引き留めるわけがない。
だが佐助は俺に伝える機会は何度もあったはずだ。
何故言わなかったのか、この場に居ない佐助を今すぐ問い詰めたい。
「お、覚えていてくださって光栄です。
その…誤解です。佐助君は大事な友人です」
衝撃が強すぎて言葉が出てこなかった。
佐助と恋仲ではなかった。
安堵したのと同時に、息を吸ってるだけでかっこいいとは、一体誰のことなのか。
受けた衝撃がおさまらぬうちに舞が諦めの混じった表情で言った。
「私は片思い中ですが、同郷の人以外に深入りしてはいけない事情があるんです。
……恋しくても打ち明けられないんです」
なんだそのおかしな事情は?深入りしてはいけないなら、他国の者と婚姻もできないだろう。
そのような縛りを設けている国はない。
話を聞いていくと国が正式に禁じていないようだが『常識的に』いけないことのようだ。
暗い顔で説明する舞が途端に不憫になる。
常識的に、とはどんな意味があるのかわからなかったが、その縛りがあるからこそ身分だけでなく『心』まで偽ってきたのだろうと。
好いた者に打ち明けられぬ辛さは今ならわかる。
(だが遅すぎたのではないか?)
謙信「すでに特別な気持ちを抱いているのであろう。
以前お前は『ここを離れれば自然と気持ちに整理がつき、薄れていくものだ』と言った。俺はてっきり恋仲の佐助のことかと思って聞いていたが…」