第9章 看病七日目 岐路
佐助「余った食材はなじみの宿へ持って行きました。まかないに使ってくれるそうです」
「そう……無駄にならなくて良かった」
佐助「どうしたの?元気がないように見える」
「ちょっとね。今日で最後だと思うと寂しくて」
今日で佐助君とも謙信様とも一生のお別れ、そういう意味の『最後』だと佐助君は察してくれた。
佐助「やっぱり帰るの?」
「うん」
謙信「……」
最後なのに暗い表情ばかりしていられない。
結び直したばかりの風呂敷をまた開いて中身を見せた。
「謙信様から頂いたの。素敵でしょう?
梅が咲く前に着物に仕立てようと思うんだ。
布が多めにあるから他にも巾着や手ぬぐいも作れそう」
針子の仕事もあるから急いで作っても仕上がるのは現代に帰った後になるだろう。
仕上がった物を見る度に謙信様を思い出して辛くなるだろうけど……
謙信様に着物を見せられないけど…
ずっと大事にしたい。
笑ったつもりなのに、胸が痛くてウルっとしてしまった。
佐助「っ!舞さん、ちょっといい?」
謙信「待て、佐助、どこへ連れていくつもりだ」
佐助「……二人きりになれる所へ」
謙信「ならん。お前達は恋仲ではないのだろう?」
佐助「舞さんから聞いたんですね?でも友人として聞きたい事がありますので失礼します」
謙信様がうんと言わないうちに強引に外に連れ出され、長屋の人たちが共同で使用している井戸まできた。
昼食の時間なので井戸端会議をしている人は居ない。