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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第9章 看病七日目 岐路


謙信「なんだそれは?国でそのような決まりがあるのか?」

「正式にそのような決まりは定められていませんが、常識的に考えて、してはいけないんです。
 ここに居れば居るだけ情が深くなってしまいます。特別な誰かができる前に国へ帰った方がいいんです」

謙信「常識的に考えて、とはどういう意味だ」

「…言えません」


(過去の人間に関わったら未来が変わるからなんて、信じてくれないよね)


謙信「しかしすでに特別な気持ちを抱いているのであろう。
 以前お前は『ここを離れれば自然と気持ちに整理がつき、薄れていくものだ』と言った。
 俺はてっきり恋仲の佐助のことかと思って聞いていたが…」


いつか言った私の言葉を一言一句違わず覚えていてくれた。
それだけで胸が打ち震える。

私の顎を捉えていた手が腰に回り、強引に引き寄せられた。

持っていた反物が床に落ちて転がった。


謙信「駄目だ、帰るな」

「っ…帰ります」


真摯(しんし)な眼差しを受け止めきれず、目を逸らす。
なんでこんなに引き留めてくるのかわからない。

佐助君と恋仲じゃないって言ったのに…。


謙信「俺にはわかる。息をしているだけで愛しいと思うなら、それは手遅れだ。
 国へ帰ったところで忘れられるはずがない」

「忘れられなくとも…帰らなくてはいけないんです。
 好きと伝えられないのに、その姿を見たら辛くて苦しいに決まっています。
 いっそその人が視界に入らない遠いところに行った方が諦めもつきます」

謙信「諦めなど……つかぬと思うぞ?少なくとも俺はそうだ」


伊勢姫様のこと?
道ならぬ恋の相手?

そう思った瞬間、ズキンと胸が痛んだ。


「平気です。人の心は移ろいやすいもの…です」

謙信「俺を侮るなよ。お前は深く想った相手を容易く忘れるような女ではない。
 日頃世話になっている友人というだけで城を抜け出し、その後も足繁く看病に来るような情の深い女が、想い人をあっさり忘れるはずがなかろう?」

「っ、離してください!」


ひき寄せられた身体は抵抗していなければとっくに抱き込まれている。

間近に迫った恐ろしいくらい整った顔に息を呑んだ。


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